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リフレクソロジー・筋膜リリースほか筋膜・結合組織身体の仕組み(機能解剖学)

筋膜と結合組織の科学:定義・構造・神経・手技で何が起きているか

筋膜の定義をめぐる議論、深筋膜と疎性結合組織、胸腰筋膜の痛覚、手の力で筋膜は変形するのか。

「筋膜リリース」「筋膜はがし」は整体やもみほぐしで広く使われる言葉です。筋膜(fascia)の研究は2007年に第1回の国際筋膜研究会議が開かれて以降、急速に進んでいます。本稿では、何が分かっていて何がまだ分かっていないのかを整理します。

1. 筋膜とは何か:定義の問題

筋膜の定義は研究者の間でも統一されていません。解剖学では、筋を包む膜など「肉眼で剥がせる結合組織の膜」を指すことが多い一方、筋膜研究の分野では、全身にひろがる結合組織のネットワーク全体を「筋膜系(fascial system)」として捉える定義が提案されています(Adstrumら, 2017)。同じ「筋膜」という言葉でも、どちらの意味で使っているかによって話の範囲が大きく変わります。

2. 構造

層 特徴
浅筋膜 皮下組織の中にある膜。脂肪組織とともに皮膚と深層の間の滑りを担う。
深筋膜(腱膜性) 四肢や体幹を包む丈夫な膜。胸腰筋膜、大腿筋膜(腸脛靭帯)など。複数の層からなり、層ごとに線維の向きが異なる。
深筋膜(筋上膜) 個々の筋を直接包む薄い膜。筋と強く結合している。
層間の疎性結合組織 ヒアルロン酸を多く含み、層どうしの滑りを担う。

Steccoらは、層間のヒアルロン酸の粘性が高まって滑りが悪くなる状態(デンシフィケーション)が痛みや動きの制限に関わるという仮説を提唱しています。興味深い仮説ですが、生体で直接確かめた研究はまだ限られています。

3. 筋膜と痛み

深筋膜には自由神経終末(痛みなどを感じる受容器)が多く分布しています。ラットを用いた研究では、胸腰筋膜に侵害受容器が豊富に存在することが示され(Tesarzら, 2011)、ヒトでも胸腰筋膜への刺激は筋への刺激より強く長い痛みを生むことが報告されています。腰痛の一部に筋膜が関わっている可能性を示す知見です。

4. 手の力で筋膜は「伸びる」のか

Chaudhryら(2008)は数理モデルを用いて、筋膜を変形させるのに必要な力を推定しました。その結果、足底筋膜や大腿筋膜のような厚く丈夫な筋膜を変形させるには、手で加えられる範囲を大きく超える力が必要とされました。一方、薄い浅筋膜であれば手の力でも変形し得るとされています。

このことから、筋膜リリース後に感じる「ゆるんだ」感覚の多くは、組織そのものの変形よりも、神経系を介した反応(筋緊張の低下、皮膚や筋膜の受容器からの入力による痛みの感じ方の変化)によると考えられています。

5. 筋筋膜の連結(アナトミー・トレイン)

T. マイヤーズは、筋と筋膜が全身でつながった「線」を作るという考え方(アナトミー・トレイン)を提唱しました。Wilkeら(2016)の解剖研究のレビューでは、背面を走る線(足底〜ふくらはぎ〜ハムストリングス〜脊柱起立筋)などで解剖学的な連続性を支持する強い根拠がある一方、他の線では根拠が中程度または限られるとされました。「つながっている」ことと「張力が遠くまで伝わって症状を起こす」ことは別の問題であり、後者はさらに研究が必要です。

6. フォームローラー・セルフケアの根拠

フォームローラーを用いたセルフケアについてのメタ解析(Wiewelhoveら, 2019)では、運動前に使うと短時間の柔軟性がわずかに向上し、運動能力を下げることはないとされました。運動後の筋肉痛の軽減にも小さな効果が報告されています。効果は一時的で大きくはありませんが、安全で手軽な方法といえます。

参考文献

  • Adstrum S, Hedley G, Schleip R, Stecco C, Yucesoy CA. Defining the fascial system. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 2017;21(1):173–177.
  • Stecco C. Functional Atlas of the Human Fascial System. Elsevier; 2015.
  • Tesarz J, Hoheisel U, Wiedenhöfer B, Mense S. Sensory innervation of the thoracolumbar fascia in rats and humans. Neuroscience. 2011;194:302–308.
  • Chaudhry H, et al. Three-dimensional mathematical model for deformation of human fasciae in manual therapy. Journal of the American Osteopathic Association. 2008;108(8):379–390.
  • Wilke J, Krause F, Vogt L, Banzer W. What is evidence-based about myofascial chains: a systematic review. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation. 2016;97(3):454–461.
  • Wiewelhove T, et al. A meta-analysis of the effects of foam rolling on performance and recovery. Frontiers in Physiology. 2019;10:376.
  • Schleip R, Findley TW, Chaitow L, Huijing PA, eds. Fascia: The Tensional Network of the Human Body. Churchill Livingstone; 2012.

本記事は一般的な学術情報の解説であり、診断や治療の代わりにはなりません。強い痛み、しびれ、発熱、排尿・排便の異常、急な脱力などがある場合は、まず医療機関を受診してください。

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