腰痛:ぎっくり腰から慢性腰痛まで、診療ガイドラインが勧めること
腰痛の分類、画像検査で分かること・分からないこと、急性と慢性で異なる対処、整体やマッサージの位置づけ。
腰痛は、世界で最も多くの人の生活に支障をきたしている健康問題の一つです。日本でも、男性の自覚症状の1位、女性の2位が腰痛です。本稿では、国内外の診療ガイドラインにもとづいて、腰痛の考え方と対処を解説します。
1. 腰痛の分類
| 分類 | 内容 |
|---|---|
| 重い病気が隠れている腰痛 | 骨折、がんの転移、感染症、馬尾症候群など。割合は少ないが見逃してはいけない。 |
| 神経症状を伴う腰痛 | 椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症により、脚にしびれや痛みが出る(「坐骨神経痛」の記事を参照)。 |
| 非特異的腰痛 | 上記にあてはまらず、痛みの原因となる特定の部位を明確にできない腰痛。腰痛の大部分を占める。 |
「腰痛の85%は原因不明」という表現がよく使われますが、これは「原因がない」という意味ではなく、筋、椎間関節、椎間板などのどれが主な原因かを、現在の検査では一つに特定できないという意味です。
2. 画像検査で分かること・分からないこと
Brinjikjiら(2015)のレビューでは、腰痛のない人でも、椎間板の変性や膨隆が年齢とともに高い割合で画像に写ることが示されました。たとえば椎間板の変性は、痛みのない20歳代でも約4割、60歳代では約9割に見られます。つまり画像で「異常」が見つかっても、それが痛みの原因とは限りません。重い病気が疑われる場合を除き、急性の腰痛ですぐに画像検査を行うことは、多くのガイドラインで勧められていません。
3. 受診が必要な危険なサイン(レッドフラッグ)
- 排尿・排便の異常、股や肛門周囲のしびれ
- 脚の力が急に入らなくなった、しびれが広がっている
- 発熱、原因不明の体重減少、がんの既往
- 安静にしても痛む、夜間に痛みが強くなる
- 転倒や事故の後の痛み、骨粗しょう症がある、ステロイド薬を長く使っている
- 20歳未満または55歳以上で初めて起きた強い腰痛
4. ぎっくり腰(急性腰痛)への対処
- 安静にしすぎない:痛みの範囲内で、できるだけふだんの生活を続けたほうが回復が早いことが分かっている。ベッドで長く安静にするのは勧められない。
- 多くは自然に良くなる:急性腰痛の多くは数週間で大きく改善する。ただし再発しやすい。
- 温める:温熱が短期的な痛みの軽減に役立つという根拠がある。
- 薬:必要に応じて医師・薬剤師に相談する。
- 手技療法:脊椎マニピュレーションやマッサージは、選択肢の一つとして挙げられている(効果はわずか〜中程度)。
5. 慢性腰痛(3か月以上続く腰痛)への対処
- 運動療法:最も推奨度が高い。種類(筋力、ストレッチ、ヨガ、ピラティスなど)による差は大きくなく、続けられるものを選ぶ。
- 痛みの理解:「痛み=体が壊れている」ではないと理解すること、動くことへの恐れを減らすことが回復を助ける(「痛みの仕組み」を参照)。
- 認知行動療法:痛みへの考え方や行動のパターンを見直す方法。推奨されている。
- 手技療法・鍼:運動療法などと組み合わせる選択肢として挙げられている。単独で長期的に治すという根拠は乏しい。
- 仕事・生活:休職や活動制限が長引くほど回復が遅れる傾向がある。可能な範囲で仕事や活動を続けることが勧められる。
6. 整体・マッサージの上手な使い方
手技療法は、痛みを和らげて体を動かしやすくするための「きっかけ」として使うのが合理的です。施術で楽になった時期に、少しずつ運動や活動を増やしていくことが、再発予防につながります。「通い続けないと悪化する」「骨盤のゆがみが原因」といった説明で、長期の回数券を勧められた場合は慎重に判断してください。
参考文献
- Hartvigsen J, et al. What low back pain is and why we need to pay attention. The Lancet. 2018;391(10137):2356–2367.
- Foster NE, et al. Prevention and treatment of low back pain: evidence, challenges, and promising directions. The Lancet. 2018;391(10137):2368–2383.
- Brinjikji W, et al. Systematic literature review of imaging features of spinal degeneration in asymptomatic populations. American Journal of Neuroradiology. 2015;36(4):811–816.
- 日本整形外科学会・日本腰痛学会 監修『腰痛診療ガイドライン2019(改訂第2版)』南江堂, 2019.
- Qaseem A, et al. Noninvasive treatments for acute, subacute, and chronic low back pain. Annals of Internal Medicine. 2017;166(7):514–530.
本記事は一般的な学術情報の解説であり、診断や治療の代わりにはなりません。強い痛み、しびれ、発熱、排尿・排便の異常、急な脱力などがある場合は、まず医療機関を受診してください。