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神経系・痛みの仕組み身体の仕組み(機能解剖学)

痛みの仕組み:侵害受容・神経障害性・痛覚変調性と、ゲートコントロール説

痛みの定義、痛みの3つのタイプ、脊髄での調整、中枢感作。慢性の痛みが「損傷の大きさ」と一致しない理由。

手技療法を理解するうえで最も重要なのが、痛みの仕組みです。痛みは「体のどこかが壊れている量」をそのまま示すものではなく、神経系が作り出す体験です。この理解は、施術でなぜ痛みが和らぐのか、慢性の痛みがなぜ長引くのかを説明する鍵になります。

1. 痛みの定義

国際疼痛学会(IASP)は2020年に痛みの定義を改訂し、痛みを「実際の、あるいは潜在的な組織損傷に関連した、あるいはそれに似た、不快な感覚的・情動的体験」としました。付記では、痛みは生物学的・心理的・社会的な要因の影響を受けること、痛みと「侵害受容」(傷害の信号を神経が伝えること)は同じではないことが明記されています。

2. 痛みの3つのタイプ

タイプ 仕組み 例
侵害受容性疼痛 組織の損傷や炎症が、侵害受容器を刺激して起こる 捻挫、打撲、急性の腰痛の多く
神経障害性疼痛 神経そのものの損傷や病気による 坐骨神経痛(神経根の圧迫)、帯状疱疹後の痛み
痛覚変調性疼痛 組織や神経に明らかな損傷がないのに、痛みを処理する仕組みが過敏になっている 線維筋痛症、慢性腰痛の一部

3つ目は2017年にIASPが採用した比較的新しい用語です(Kosekら, 2016)。実際の痛みは、これらが混ざり合っていることがよくあります。

3. 信号の流れ

  1. 受容:皮膚、筋、関節などにある侵害受容器が、強い圧力、熱、化学物質に反応する。
  2. 伝導:信号は細い神経線維(速いAδ線維と遅いC線維)を通って脊髄へ送られる。ぶつけた直後の鋭い痛みと、その後のじんわりした痛みは、この2種類の線維に対応する。
  3. 脊髄での調整:脊髄の後角で、信号は強められたり弱められたりする。
  4. 脳での処理:脳の複数の領域が、信号を、注意・記憶・感情・状況と統合して「痛み」として体験させる。
  5. 下行性の調整:脳から脊髄へ向かう経路が、痛みの信号を抑えたり強めたりする。

4. ゲートコントロール説

1965年、メルザックとウォールは、脊髄の後角に痛みの信号の「門(ゲート)」があり、触覚などを伝える太い神経線維(Aβ線維)の信号が入ると門が閉じ、痛みの信号が伝わりにくくなるという説を提唱しました。ぶつけたところを思わずさすると痛みが和らぐのは、この仕組みで説明されます。細部は後の研究で修正されていますが、痛みが脊髄レベルで調整されるという考え方は、現代の痛みの科学の出発点になりました。マッサージや鍼などの刺激が痛みを和らげる仕組みの一部も、この考え方で説明されます。

5. 中枢感作:慢性の痛みはなぜ長引くのか

強い痛みや長く続く痛みの信号を受け続けると、脊髄や脳の神経が信号に過敏になることがあります。これを中枢感作と呼びます(Woolf, 2011)。中枢感作が起きると、次のような変化が見られます。

  • ふだんなら少し痛い程度の刺激を、強い痛みとして感じる(痛覚過敏)。
  • 本来痛くないはずの軽い触れ方でも痛みを感じる(アロディニア)。
  • 痛む範囲が広がる。

慢性の痛みでは、組織の損傷はすでに治っていても、神経系の過敏さによって痛みが続いていることがあります。このため、画像で見える変化の大きさと痛みの強さは一致しないことが多いのです。

6. 心理・社会的な要因

不安、落ち込み、「動かすと悪化する」という恐れ、睡眠不足、仕事や家庭のストレスは、痛みを強め、慢性化させる要因になることが分かっています。これは「気のせい」という意味ではなく、脳の痛みの処理がこれらの影響を実際に受けるためです。

7. 手技療法への示唆

  • 施術による痛みの軽減の多くは、組織の構造の変化より、神経系の調整(脊髄レベルの抑制、脳からの下行性抑制、安心感)で説明される。
  • 「骨がずれている」「このままだと悪化する」といった恐れをあおる説明は、かえって痛みを長引かせるおそれがある。
  • 慢性の痛みでは、痛みの仕組みを理解すること自体(痛みの教育)と、少しずつ体を動かすことが重要とされる。

参考文献

  • Raja SN, et al. The revised International Association for the Study of Pain definition of pain: concepts, challenges, and compromises. Pain. 2020;161(9):1976–1982.
  • Melzack R, Wall PD. Pain mechanisms: a new theory. Science. 1965;150(3699):971–979.
  • Woolf CJ. Central sensitization: implications for the diagnosis and treatment of pain. Pain. 2011;152(3 Suppl):S2–S15.
  • Kosek E, et al. Do we need a third mechanistic descriptor for chronic pain states? Pain. 2016;157(7):1382–1386.
  • Moseley GL, Butler DS. Explain Pain. 2nd ed. Noigroup Publications; 2013.

本記事は一般的な学術情報の解説であり、診断や治療の代わりにはなりません。強い痛み、しびれ、発熱、排尿・排便の異常、急な脱力などがある場合は、まず医療機関を受診してください。

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